キミと桜を両手に持つ
episode05

 「えー、みなさん、我が制作部のエースがアメリカから戻ってきました〜!」

 月曜日の朝、前田さんは嬉しそうに皆の前で藤堂さんを紹介した。

 「藤堂さん戻ってきたんですね〜。これって短期じゃなくてずっとって事ですか?」

 「もうこのまま制作部に戻ったらいいじゃないですかー」

 皆に囲まれてそんな冗談とも本気ともつかないことを言われながら藤堂さんは私たちのチームで働き始めた。

 さすが以前この仕事をしていただけあって慣れているのか、上野さんの案件をほとんど全て引き継ぐと開発部との仕事を両立させながら仕事をはじめた。

 彼と一緒に仕事をするのは初めてだけど、仕事ぶりを見ていてどうして凄腕プロデューサーと言われていたのかよくわかる。彼はプロジェクトの管理能力に物凄く長けていて、仕事も1時間あたりの生産率が異常に高い。とにかく効率よく仕事をどんどん片付けていく。



 「藤堂さん、このままずっと制作部にいてくれたらいいのに」

 彼が制作部で働き始めて1ヶ月経ったある日、久しぶりに入った行きつけのカフェで花梨ちゃんはサラダをつつきながらそう呟いた。ちょうど会社の外で会った詩乃さんと彼女と同じ営業の紫月さんも一緒に食べることになって、テーブルの向かい側で同じようにランチを食べながらうんうんと頷いた。

 「あーあのハイスペックでイケメンの藤堂さんね。うちの部署の女の子達も同じ事言ってたな」

 紫月さんがそう揶揄うと、花梨ちゃんはぷぅっと頬を膨らませた。
 
 「それは違う意味で、ですよね。私は純粋に藤堂さんがいるとすごく仕事がスームーズにいくからこのまま残って欲しいってことです」

 私はそんな会話を聞きながら一口大にカットしたチキンのトマト煮をフォークでグサッとさして口の中に入れた。
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