キミと桜を両手に持つ
episode08
「ちょっと休憩」
一樹はチームメイトに手を上げて合図を送ると、ベンチで座って休んでいた友達と交代してバスケットボールコートから出た。
毎週土曜日の夕方、友達同士が集まってこうしてバスケットをして遊んでいる。元々一樹は体を動かすのが好きで、アメリカにいる時もこうやって仕事仲間とバスケを昼休みや週末によくやっていた。
コートサイドのベンチには詩乃が座っていて、恋人の桐谷蓮がプレーしているのを見ている。一樹がコートから出てくるのを見ると冷えたスポーツドリンクを手渡した。
「制作部に戻ることにしたんだって?」
「サンキュー」と言ってドリンクを受け取ると一気に半分ほど飲み干した。冷たい飲料水が水分を失った体に一気に染み渡るのを感じる。
「そろそろ日本に戻ってもいいかなと思って。アメリカも良かったけどやっぱり日本が俺には合ってるみたいだから」
「ふーん」
詩乃はニヤニヤしながら一樹を覗き込んだ。
「それで凛桜さんと一緒に暮らすことにしたんだ」
「どうせ部屋余ってるし」
「へぇー。前は一人の方が気楽って言ってたのにねぇ」
詩乃は無表情でゲームを見ている一樹をニヤニヤとしながら見た。そんな彼女を無視して持ってきたタオルで顔を拭きながらバスケの試合に集中しようとする。
凛桜との同居生活は思いがけず楽しいものとなった。正直なところ楽しすぎて彼女に恋をしてしまい、手放す事ができなくなってしまった。
彼女は会社では仕事を黙々とこなすクールな感じの女の子。メイクや服装をビジネスシーン用にしているからか、しっかりしていて隙もなくとてもプロフェッショナルに見える。でもそんな彼女は家に帰るとその仮面をすべて剥ぎ取り、まったく別の無邪気な顔を見せる。