キミと桜を両手に持つ
episode10
「如月ちゃん、遠坂くんどうよ?」
私が花梨ちゃんと佐伯くんそして新人の平井くんと一緒にリフレッシュルームでコーヒーを飲みながら雑談していると、加賀さんが入ってきた。
「いや、もうすごいですよ。あんなにすごいエンジニアが今までなぜ常駐先にいたのかさっぱりわかりません」
遠坂晶くんは一ヶ月前堀川くんと入れ替わりに入ってきたエンジニア。彼はとても変わっていて、仕事も定時になるとさっさと帰っていくし金曜日は毎週自宅勤務。でも堀川くんと違って恐ろしいほどよく仕事ができて、毎日定時内にすべてのタスクをこなして帰っていく。
「でも、なんでこの時期に急に堀川くんと遠坂くんを入れ替えたんだろう」
「なんかね、堀川のやつ、藤堂さんの逆鱗に触れたらしいのよ。知ってる?堀川の常駐先。あそこ社内規則が厳しいって有名なんだよ」
「ええっ?藤堂さんの逆鱗?だ、だって藤堂さんあんなに優しいのに」
私は目を丸くして加賀さんを見た。
「ああ言う普段優しい人ってね、キレると結構怖いのよ」
「うわ、まじっすかー。俺も気をつけよ」
平井くんはガラス越しに見える藤堂さんを恐ろしげに振り返った。
「でも、藤堂さんの逆鱗に触れるって一体何したんだろう?」
温和な彼を怒らせるような事が見つからなくて首を傾げる。
「堀川のことだからさ、きっと仕事中にエロいサイトでも見てたんじゃないの?」
ふーんと皆でポリポリとお菓子を食べながら加賀さんの言うことに頷いていると佐伯くんが変な顔をして私を見た。
「エロいサイトで思い出したけど、遠坂くんさ、時々PCの画面見てニヤついてるじゃん。何見てるんだろう、って言うかそもそもモニター見えてるの?」
加賀さんは今もモニターを見てニヤついている遠坂くんを眉を顰めて見た。遠坂くんは髪型がもっさりしていて長い前髪は目を完全に覆い隠すほど伸びている。その髪型のせいで今まで彼の顔を誰も見たことがない。