悪役令嬢を期待されたので完璧にやり遂げます!

耳にした噂話

それは夏の暑さがやわらぎ、日の短さを感じるようになったある放課後のことだった。
図書室からの帰り道、一人校内を歩いていたマリアンヌは、ふと自分の名前が聞こえた気がして足を止めた。

「マリアンヌ様、よく我慢なさっていらっしゃるわよね」
「ええ、本当に! わたくしだったらお父様にお願いをして、とっくに婚約解消を願い出ているところですわ」
「マリアンヌ様ほどの方なら、たとえ王家との婚約が駄目になろうとも引く手あまたでしょうし、名前に傷が付くとも思えませんものね」

夕方の校舎には残っている人もまばらだからか、気を抜いた令嬢たちが空き教室で噂話に興じているらしい。
それは珍しくもないありきたりな光景だったが、耳にしたのが噂されている張本人ともなれば事情も変わってくるというもので……。

マリアンヌはこっそり教室の窓へと身を寄せると、人気のない廊下で息を潜めて耳を澄ませた。
< 1 / 54 >

この作品をシェア

pagetop