野獣皇帝と愛しき追憶の乙女 ~虐げられた紛いもの王女の政略結婚から始まる溺愛生活~
プロローグ

 やわらかな草の上に寝ころんで晴天を見上げる。
 日差しはぽかぽかと暖かで、時折頬を撫でてゆくのどかな風が心地いい。
 ここはサドニア神聖王国の華やかな王宮の裏手に、忘れ去られたようにひっそりと建つ離宮の庭。
 そして私は、存在を忘れ去られた第四王女だ。
「あー、いい気持ち」
 思わず声にするのと同時、周囲に咲くシロツメクサがぽぽぽっと元気になる。この小さな変化は、私の気持ちに呼応して起こった〝光の加護〟だ。
 光の神の子孫が築いたとされるこの国には、時折〝光の乙女〟が生まれる。乙女は光の加護をもたらす存在で、幸福に過ごせていればいるほど国が豊かに栄えるという。しかし、ここ五百年ほどは生まれていない──と、思われている。
「こーら。メッ」
 万が一、人に見られたらどうするのだ。そんな思いを込めて一輪をちょいとつつけば、私だけに聞こえるリンッと澄んだ音が鳴り、光の粒子がパッと舞う。
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