野獣皇帝と愛しき追憶の乙女 ~虐げられた紛いもの王女の政略結婚から始まる溺愛生活~
父王からの呼び出しと言い渡された輿入れ
ある日の昼下がり。
突然、王宮から侍女たちが押し寄せてきた。彼女らの手にはドレスと小物類、化粧道具一式が抱えられていた。
いったいなにごと?
驚く私を余所に、侍女たちは慣れた手つきでドレスを着せ付け、髪を結い、化粧を施していく。そうして身支度が整うと、あれよあれよという間に父の前へと引っ張り出されていた。
ちなみに、侍女たちが手を尽くしても私の様相はちょっと残念なものだった。貧した暮らしで痩せた体に、用意されていたドレスは横がブカブカで、丈は引きずるほど長い。肩のあたりで適当に切っている髪は、高い位置で結うには長さが足りず襟足がピンピンと跳ねてしまっている。化粧も、普段姉王女たちにしている寒色系のメイクをそのまま施したのだろう、私のこけた頬を強調して一層貧相に見せた。
華やかな王宮の中でもひと際豪華な両開きの扉を潜った先に現れた総大理石の接見室で、父王は一段高い場所にある金の装飾が施された椅子に座っていた。