野獣皇帝と愛しき追憶の乙女 ~虐げられた紛いもの王女の政略結婚から始まる溺愛生活~
初めてのデート
ジンガルドにチョコレートを貰った五日後。
私たちはお忍びで例の市場にやって来ていた。
「ほら、はぐれるといけないから」
「う、うん」
ジンガルドに促されるまま差し出された手を取ると、すっぽりと包まれる。その大きさと力強さに、鼓動が跳ねる。
……あ。それに、手のひらがすごく硬い。
私はこの数日、書物を読んだりエリックさんや侍女たちに聞き、自分なりにタイラント帝国のことを学んだ。ジンガルドは、お家騒動を鎮静させただけじゃない。代替わりのゴタゴタにかこつけて攻め入って来た隣国レガロン王国との戦争も、自ら先陣を切って完全制圧。併合や属国化を訴える強行派を説き伏せて和平協定を結び、共存の道を選んでいる。
ジンガルドは戦場で野獣皇帝と恐れられるほどの苛烈さと、平和的で未来志向な思考を併せ持つ。彼には強さと優しさが同居しているのだ。
そして彼は、今でも鍛錬を欠かさないという。手の皮膚が硬いのは、日頃から剣を振るっているから。