野獣皇帝と愛しき追憶の乙女 ~虐げられた紛いもの王女の政略結婚から始まる溺愛生活~
明かされた王女の秘密
その日。
私は緊張の面持ちで、教師の訪れを今か今かと待ち構えていた。
──コンコン。
「フィアンナ様、先生がお見えになりました」
「どうぞ、お通ししてちょうだい」
エリックさんの声に、緊張しながら答えた。
扉がゆっくりと開かれ、グリーンのドレスを身に纏った栗色の髪と瞳の優しげな女性が部屋に入って来た。
ひと目見て胸に湧いたのは好感と親近感。どこか懐かしいような、ホッとするような、この不思議な感覚はなんだろう?
こういった対面の際は身分の高い者から先に声をかけるものだというのは聞きかじっていたのだが、私はそれもすっかり忘れ女性の顔を見つめたまま考え込んでしまう。
「先に口を開きます無礼をお許しくださいませ。このたび、フィアンナ様のマナーと行儀作法の講師を仰せつかりました。ベルドナーレ公爵夫人、ドロシーと申します」
先生は少し迷ったような表情を浮かべた後で、流れるようなカーテシーをしながら名乗った。
っ、いけない!