野獣皇帝と愛しき追憶の乙女 ~虐げられた紛いもの王女の政略結婚から始まる溺愛生活~
忍び寄る不穏な影
お披露目から五カ月が経ち、挙式まで残すところあと一カ月となったその日。
政務室でオズモルトと共にやって来た軍務大臣からもたらされた第一報に、俺はガタンと椅子を蹴って立ち上がる。
「なんだと! サドニア神聖王国が……!?」
軍務大臣からなされた報告は、にわかには信じ難いもの。その一方で、彼の国がとり得る最悪の選択肢として念頭に置いていたものでもある。
それでも、まさか彼の国がここまで愚かだとは思いたくなかった。
「確かな情報です。およそ一万の軍勢が国境地域へ進軍中。このままゆけば三日後には共同開発区域で開戦が見込まれます」
落胆と空虚感が全身を支配する。
だが、我が国の領土をむざむざ侵される訳にはいかない。戦を仕掛けられたからには、一国を預かる長として容赦はしない。
「帝国軍二万で迎え撃つ。陣頭指揮は俺が執る。出陣の用意をせよ」
虚しい思いを押し込めて派兵を指示した。
「ハッ!」