野獣皇帝と愛しき追憶の乙女 ~虐げられた紛いもの王女の政略結婚から始まる溺愛生活~
皇妃の決断と祖国の結末
俺が二万の軍勢を率い、帝宮を出立して三日目。
サドニア神聖王国との国境となる共同開発区域の平原で、ついに両陣営が正面から睨み合うこととなった。
二万の軍勢で挑む我らタイラント帝国軍。それに対し、満足な装備も与えられぬ農民兵ばかりで構成された一万のサドニア神聖王国陣営は、まともな配陣を組むことすらままならぬ有様だった。
さらに王家の威信をかけた聖戦と言いながら、サドニア神聖王国陣営の総指揮官は平時は華々しい近衛騎士団の陰に隠れた王国騎士団の団長だ。当然、王族の参戦はない。斥候からの報告によれば、王国が誇る近衛騎士団の面々も全員王宮の守りに徹し、王都を離れないというのだから笑い種だ。
「できるだけ彼らを傷つけず、穏便に事を済ませたいと思ってしまう私は甘いのでしょうか」
今回の戦で俺の副官を務める男がこぼした台詞を、弱腰だと叱咤することはできなかった。