野獣皇帝と愛しき追憶の乙女 ~虐げられた紛いもの王女の政略結婚から始まる溺愛生活~
皇妃と野獣皇帝の長く幸せな一日
晴天に恵まれたその日は、朝から帝国中の花々が咲きこぼれ、草木が躍っていた。たくさんの立会人に見守られながら、ついに私とジンガルドの挙式が行われた。
会場となった帝宮の大広間には、キラキラと光の粒子が降り注いでいる。その光のシャワーの下、私とジンガルドは祭壇の前で夫婦になることを誓い、宣誓書にサインをする。
ジンガルドに続いてペンを取った後でほんの少し迷い、最終的にフィアンナの名前の後ろに日本語で〝杏奈〟と書き添えた。それを見つめるジンガルドの眼差しは優しい。
彼に、前世の記憶については既に伝えていた。打ち明けた時は、あまりにあっさり『そうか』と頷かれて拍子抜けしたものだ。
ただ、記憶が蘇るに至った経緯に話が及んだら、彼は全身を怒りに震わせた。そうして、震える手で私を苦しいくらいの力で掻き抱き、何度も『生きていてくれてよかった』と繰り返した。