野獣皇帝と愛しき追憶の乙女 ~虐げられた紛いもの王女の政略結婚から始まる溺愛生活~
紛いものの〝華〟
王女降嫁の日取りは、サドニア神聖王国の意向で決まった。
議会場にガベルの音が響き、俺以外全員の賛成票をもって婚姻が決定したあの日から僅か三カ月。国家間の縁組と考えれば異例のスピードだ。
俺は一年先まで政務スケジュールが詰まっており、当初は花嫁行列に同行する計画ではなかった。帝宮で到着した花嫁を出迎えるつもりでいたのだが、なんと五日間の日程で組まれていた西部地区での視察が、先方の都合で急遽二日ほど短縮された。
真っ直ぐ帝都に帰還する選択もできたが、俺は迷わず同行していたオズモルトと俺付きの護衛騎士から精鋭の二名ばかりを引き連れて視察団を離れた。急遽、花嫁行列に加わることを決めたのだ。
丸一日ほど進路を北にとって進み、翌日の昼、旅装のローブを纏って身分を隠した俺たちは、サドニア神聖王国との国境に近い大衆食堂に立ち寄った。
この町の名物を注文し、四人でテーブルに着く。