野獣皇帝と愛しき追憶の乙女 ~虐げられた紛いもの王女の政略結婚から始まる溺愛生活~
野獣皇帝の献身
四カ月間私を放置して女遊びに精を出していた夫が突然現れたと思ったら、いきなり怒鳴りつけられた。
たしかに交流日をすっぽかした私も悪い。だけど、そこに至った事情を考慮すれば、こんなふうに一方的に責め立てられるのは納得がいかなかった。
サドニア神聖王国を出る時に、もう阿呆のふりはしないと決めていた。私は湧きあがる反骨心のまま、毅然とした態度であげつらってやったのだが、目の前の男の様子がなんだかおかしい。
怪訝に思っていると、一歩分の距離を詰められる。両肩を掴まれて、その力強さに慄いた。
「アンナ!」
切羽詰まったような声と表情で呼びかけられ、ギョッとして男を仰ぎ見る。
どうしてその名前を知っているの? だって、前世の名前は誰にも明かしていないはずで……。
ここでふいに、一片の記憶が脳裏を掠める。
……ううん。私、昔に一度だけ名乗ったことがある。
あれはたしか、ロアンとテレサが引退して半年ほどが経った頃だ。