本当の愛を知るまでは
もう二度と離れられない
「ではでは、かんぱーい!」

仕事上がりに4人で50階のバーに行くと、早速ビールで乾杯する。

「いやー、楽しいっすね」
「は? 滝沢、乾杯しただけで何言ってんのよ。安上がりな男ね」
「お買い得っすよ、俺。森川さん、2番目の男としてどう?」
「アホ! 花純が頷くわけないでしょ?」

滝沢と千鶴のやり取りに、ふふっと笑みを浮かべていると、原が話しかけてきた。

「花純、上条さんに愛されてんだな」
「えっ、どうして?」
「最近の花純、なんか表情が柔らかくなった。よく笑うし、幸せオーラが滲み出てる」
「そう、かな?」

恥ずかしくて思わず頬に手を当てる。

「花純、これまでずっと恋愛に対してドライだっただろ? だけど上条さんとつき合ってからは雰囲気変わった。愛の力ってすごいな。で? 結婚は契約だ、って考えも変わったのか?」

聞かれて花純は考え込んだ。

「どうだろう、あんまり考えてなかった」
「一緒に住んでんだろ? 二人で生活してみて、このまま一緒にいたいって思ったりするか?」
「それは、うん。思う」

一人の時間を大切にしてくれる人がいい、とこれまで思っていたし、光星も部屋を用意してくれていたが、実際は一人になりたいと思ったことはなかった。

「それなら、結婚生活も上手くいくんじゃないか?」
「だけど、私はそうでも向こうは違うかもしれない」
「なんで?」
「だって光星さんは、大企業の社長さんだもん。私じゃ釣り合わないって気がしてきて……」

いつの間にか千鶴も滝沢も黙って花純の話に耳を傾けている。
しばらく押し黙ってから滝沢が口を開いた。

「森川さんさ、上条さんにそう言われたの? 俺に釣り合わないなって」
「まさか! そんなこと言われたことない」
「だったらなんでそんな心配すんのさ? 俺、隙あらば森川さんのこと奪ってやろうって目を光らせてるけど、上条さんはめちゃくちゃ森川さんに惚れてる。俺を牽制しまくってくるし、愛がダダ漏れ。実はさ、上条さん3日前にカフェに来たんだけど、その時やたら真剣な顔で俺に言ったんだ。『俺の花純に手を出したらどうなるか覚えとけ』って。どういうことー? って思ってたけど、アメリカ行くからだったんだな」
「えっ、光星さんがそんなことを……」

花純が顔を真っ赤にすると、千鶴が「やーん、素敵!」と身悶えた。

「なんかそういうのってさ、花純の知らないところで釘刺すっていうのが更にキュンとするー! ってちょい待ち。滝沢、あんた昼間花純に言い寄ってたわよね? 上条さんが帰ってくるまで俺とつき合う? って」
「あー、内緒っすよ。マジで八つ裂きにされるから」
「されてしまえー」
「ひでーなー、杉崎さん」

言い合いが始まった二人に、原がやれやれとため息をつく。

「ま、心配することなんてないんじゃねえの? それだけ上条さんに愛されてんだ、もっとドーンと構えてろ。それと花純、変な考えに惑わされるな。上条さんの言葉だけを信じろ。 お前が上条さんに対してすべきことは心配じゃない、信頼だ」
「原くん……。分かった、これからは光星さんの言葉だけを信じるね」

自分に言い聞かせるように言うと、原も笑顔で「おう!」と頷いた。
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