呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
1/愛のない結婚
「やめるときも、健やかなるときも。新婦を愛すると誓いますか?」
「誓わない」

 ――ミミテンス公爵家のイブリーヌは、ヘスアドス帝国皇帝であり、夫となるオルジェント・ドゥム・アヘンドスによって、天国から地獄へと叩き落された。

「では、この結婚は……」
「このまま進めてくれ」
「しかし……」
「皇命だ」
「はっ」

 愛のない結婚であったとしても、誓いを立てるのが通例だ。

 まさか拒まれるなど思わなかった神父は難色を示したが、権力を笠にしたオルジェントは強引に結婚式を続けるように指示を出す。

「では、新婦。誓いますか」

 何か言いたげな視線をイブリーヌに向けたあと、神父は何事もなかったかのように彼女へ同じ質問を問いかけた。

(上辺だけの言葉を並べて、一体なんの意味があると言うのだろう)

 イブリーヌは彼の本心を聞くまで、自分がオルジェントに望まれて結婚することになったのだと勘違いしていた。

(彼は私を、愛していないのに)

 夫婦になってからオルジェントを好きになろうと努力するつもりだったイブリーヌにとって、彼女に愛を誓わない彼の行動は、今まで築き上げてきた信頼関係を無に帰す決定打となった。
< 1 / 209 >

この作品をシェア

pagetop