呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
6/黒猫の魔の手
「白猫さん。怖く、ないですよ……?」
『僕は水が、嫌いなんだ』

 イブリーヌはハクマの白く美しい毛並みに汚れが付着し、薄汚れていることに気づいた。
 白猫に入浴を提案すれば、断られてしまった。

 彼女はバケツにお湯を張り、どうにか汚れを落とせないかとハクマと攻防戦を繰り広げていたのだが……。

(困ったなぁ……)

 どうにも状況は、思わしくない。
 水が嫌いな白猫は、あの手この手でイブリーヌの提案を棄却していく。

「では、少しずつ……」
『僕のことは、気にしなくていい』
「ですが、汚れが目立っていますし……」
『放っておいてくれ』
「あっ。ま、待ってください……!」

 イブリーヌの腕から抜け出たハクマはそう言い残すと、彼女の静止を振り切り四肢を動かしたが――。

『うわ……っ!』
「逃げるな」

 廊下に繋がる扉から顔を見せたオルジェントと鉢合わせ、首元を引っ掴まれてしまった。

「陛下……」
「何事だ」
「白猫さんの汚れを、落とそうとしたのですが……」

 イブリーヌが夫に事情を説明する声を耳にした白猫は、だらりと空中に四肢を投げ出し、観念したように項垂れる。
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