呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
９/亡霊皇妃と死神皇帝
『かわいそう』
『生きているだけで、妬まれる』
『亡霊の愛し子だから』
『人間でいるのは、やっぱり向いてないよね』

　亡霊達が嘆き悲しむイブリーヌを慰めようと、口々に囁いた。
　漆黒の闇に飲み込まれた彼女は、いつの間にか黒猫を膝の上に抱きかかえ――見覚えのない真っ黒なドレスを身に纏い、今にも朽ち果てそうな椅子の上に腰を下ろしている。

(私……。今まで、何を、していたんだっけ……？)

　闇に飲み込まれる前の出来事は、なぜか白い靄がかかってしまい、うまく思い出せなかった。

『人間として生きてきた時のことなんて、忘れよう！』
『今日からイブリーヌは、女王様！』
『ここではなんでも、思い通り！』
『愛し子の欲しいものは、なぁに？』

　亡霊達に代わる代わる聞かれたイブリーヌは、ぼんやりと思考を巡らせる。

(私が心の底から、切望していたもの……)

　確かにあったはずなのに、それすらもうまく思い出せない。
　彼女は言いようのない喪失感に苛まれながら、ある疑問を抱く。
< 174 / 209 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop