呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない

振り出しに戻る

(あの時、彼女を娶る決断をしていなければ……。俺達の未来は、変化していただろうか)

 呪いさえなければ。
 彼女が亡霊の愛し子でなければ。

 そう何度悔やんだところで、彼女はオルジェントの元へ戻ってくることはない。

(後悔する暇があるなら、行動しろ)

 悪しき魂に愛されているイブリーヌの居場所を探るのは、簡単だ。
 恐ろしい闇の気配を辿ればいいだけだから。

(彼女が傷つくよりも、前に)

 黒いマントを翻した彼は、決意を込めた表情で城の門を開け放ち――。

「オルジェント様!」

 愛する妻と仲違いをする原因となった女と、鉢合わせてしまった。

(アメリ・テランバ……)

 オルジェントの名を呼んだ女は、当然のように彼の腕に纏わりついて胸を寄せる。
 何度引き剥がしても同じことをするため、面倒になって放置した結果があれだ。

(女狐が……)

 愛する妻を傷つけてしまったことを深く後悔している彼にとって、後妻になろうと目論むアメリの存在は、不愉快でしかなかった。

「奥様の件、聞きましたわ~!」
「離せ」
「あの方は他国から単身嫁いでいらっしゃいましたし、あちらでは亡霊の愛し子なんて呼ばれていたのでしょう? 元々、オルジェント様にはふさわしくない女性でしたのよ!」

 オルジェントは耳元で彼女に対する悪評を喚き散らすアメリに、辟易していた。
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