呪われた死神皇帝は、亡霊の愛し子に愛を囁けない
3/他の女性に、目移りしないで

 (もう二度と、戻って来ることはないと思っていたのに……)

 ヘスアドス帝国を飛び出したイブリーヌは、気がついたらミミテンス公爵家の別邸にいた。

(私にはここ以外に、帰る場所なんてないもの……)

 どうやら無意識のうちに、ここへ戻って来てしまったらしい。
 オルジェントの元へ帰るわけにはいかない彼女は、今にも底が抜けそうな床の上に座り、ぼんやりと虚空を見つめた。

『愛し子が帰ってきた!』
『たくさん傷ついて、たくさん悲しんだよね?』
『もう、苦しまなくていいんだよ』
『私達と一緒に、全部壊しちゃえ』

 そんな愛し子の姿を目にした亡霊達は、意識を覚醒させたイブリーヌを優しく出迎えると、口々に囃し立てる。

(あれほど、毛嫌いしていたのに……)

 今となっては悪しき魂の声だけが、彼女を裏切らない。
 唯一の信じられる味方になってしまったのだから、不思議なものだ。

(もう、疲れた……)

 イブリーヌは自身の周りに集まる亡霊達に手を伸ばすと、か細い声で彼らに問いかけた。
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