さくらが散る頃

決別のとき

 陸は家に出る直前言った。
『銃刀法違反だから刃物は置いてってね』と。

 陸もきっと凌介もこの鞄の中に入っているものに気づいていて、だけど私を信じて取り上げたりなんてしなかったんだとわかった。

「まずは腹ごしらえだ、お腹減っただろ?」
「てか寝なくていいの?」
「俺が寝たらお前いなくなっちゃうじゃん」

 そう言って視線を下げ小さく笑う。

「約束するから、ご飯食べたら少し寝よう」
「ん、うーん、凌介呼ぶか」
「信用ないな」

 私は苦笑いを浮かべた。
 そりゃ信用なんてされないのはわかっているけど、私は今、河森美海という人間と、この目の前にいる神谷陸という人間と、そして深海凌介という人間、三人のことを頭に浮かべた。

 誰に信用されたいのか、誰を傷つけたくないのか。

 お菓子をもらったからジュースを奢る、とかそういった類のものではなく、そうしなきゃいけないからそうしているといった義務でもない。

 私が見返りもなにもなくほんとうに信じてほしいのは誰なのか、それは考えて答えを導き出すまでもなかった。
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