さくらが散る頃

明けない夜

 明けない夜をいくつも繰り返しここまで来た。
 だけど夜は毎日明けていることに最近気づいた。

「じゃあ私家に戻るね」
「ああ、夜に凌介のところで会おう」
「うん、お疲れ」

 陸と別れて自宅のマンションに向かう。美海は今どこにいるんだろう。ぼんやりとそんなことを考えながら歩いてマンションの前に着いた時だった。

「さくらさん?」甲高い女性の声がして思わず足を止める。「ああ! やっぱりそうだ! 藤沢さくらさん」

 跳ねるように私の名を呼ぶ声、ドクッと心臓が揺れてしだいに早くなる。私の名前を知っている人なんていないはずだ。学生時代の友人が今更私に用事があるとは思えない。
 
 ゆっくりと振り返る。

「はい?」

 訝しげなまなざしで目の前の女を見た。
 すると女はにっこりと微笑んだ。

 歳は三十過ぎくらいだろうか、若く見えるけど実年齢はそのくらいだと思う。幅の広い二重が大きな目を装飾している。鼻筋も通っていてフェイスラインがシャープだ。鎖骨くらいまで伸びた髪、毛先の方は大きなウエーブを描いている。派手な印象でとても目立つ容姿だと思った。
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