さくらが散る頃
最期の夜
「おばあちゃん」
アルコールの匂いが鼻腔を刺激する。いつ来ても慣れるような場所じゃない。いつもはしんとしている病室、今日はいつもより騒がしい。
個室に入れるようになったのはもう先が長くないとのことから。決していいことというわけではない。
グレイヘアで表情を変えずともシワが顔中に現れている。八十三年、生きてきたその証が名誉のごとく刻まれている。
病室にはゆっくりとエンドロールが流れている。高松文子はその長い人生のエンディングを迎えようとしていた。穏やかな顔つき、苦しさは今は感じていないらしい。意識は朦朧としている時もあればはっきりとしている時もある。
息子の高松亮彦は彼女のしわくちゃな手を両手で握りしめている。
「ばあちゃん、みなみも慎介もいるよ」
「あぁ、みなみちゃん、慎介くん、来てくれたんだね」
「おばあちゃん、来たよ!」
孫の慎介が中腰になり久子の手に触れる。
久子はうんうんとうなずきながら眠いのだろうか、ゆっくりと目を閉じた。
「今は容態は落ち着いています」
看護師さんのその声に少しの安堵の声が漏れる。
アルコールの匂いが鼻腔を刺激する。いつ来ても慣れるような場所じゃない。いつもはしんとしている病室、今日はいつもより騒がしい。
個室に入れるようになったのはもう先が長くないとのことから。決していいことというわけではない。
グレイヘアで表情を変えずともシワが顔中に現れている。八十三年、生きてきたその証が名誉のごとく刻まれている。
病室にはゆっくりとエンドロールが流れている。高松文子はその長い人生のエンディングを迎えようとしていた。穏やかな顔つき、苦しさは今は感じていないらしい。意識は朦朧としている時もあればはっきりとしている時もある。
息子の高松亮彦は彼女のしわくちゃな手を両手で握りしめている。
「ばあちゃん、みなみも慎介もいるよ」
「あぁ、みなみちゃん、慎介くん、来てくれたんだね」
「おばあちゃん、来たよ!」
孫の慎介が中腰になり久子の手に触れる。
久子はうんうんとうなずきながら眠いのだろうか、ゆっくりと目を閉じた。
「今は容態は落ち着いています」
看護師さんのその声に少しの安堵の声が漏れる。