さくらが散る頃

凌介の過去

「ではすみません、今日はゆっくり休んで明日またお聞きしたいことがありますので署の方に来てきただいてもいいですか?」
「はい」

 外に出ると冷たい空気が頬を刺した。
 すぐに凌介の家に行き凌介の服をいくつか鞄に入れた。
 そして下着を買いに行き、教えられた病院へ向かう。

 ――とりあえず大丈夫だから、心配しないでゆっくり来て、気をつけて

 凌介のそのメッセージを半信半疑で受け取る。まだ陸の顔を見るまでは大丈夫という言葉は信じられない。

 心臓の加速とともにタクシーも加速していく。

 特になにも話しかけてこない運転手でよかった。こんな日は余計にそう思う。

 病院へ着くとすぐに凌介と会う。
 凌介の顔を見つけると慌てて駆け寄った。

 凌介の顔はさっきと変わらないから最悪の事態は免れているんだと安堵した。

「どう?」
「今手術中」
「大丈夫だよね?」
「ああ、大丈夫だ」

 椅子に座り手術が終わるのを待つ。時間がやけに長く感じる。私は途切れた会話の続きをしばらく時間が経ってから付け加えた。

「その『大丈夫』って医師として言ってる? 友人として言ってる?」
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