さくらが散る頃

満開のさくら

「あら、さくら! さくらじゃないの! お父さん! さくらが帰ってきた」
「ええ? おー、帰ってきたか、上がれ上がれ」
「仕事は頑張ってるの? あまり顔見せないで、お父さん寂しがってるんだからたまには顔見せなさいよ」
「うん、ごめん」

 実家に帰るのなんて何年ぶりだろう。

「弁護士事務所ってのはそんなに忙しいのか?」
「まあね」
「パラパラパラ……なんだっけ、まあでも立派な仕事に就いてくれてよかったわ、お隣の亜樹ちゃん、フリーター? とかなんとか言ってたわよ、お母さん娘がそんなんだったら恥ずかしくて恥ずかしてとてもじゃないけど周りに言えないわ」

 作り笑いは何年ぶりだろう、この息苦しさにはやっぱり慣れない。

「さくら、ちゃんと食べてるの? 痩せたんじゃない? 亜樹ちゃんなんてこーんな太って、ダイエットしようとか思わないのかしら」
「まあまあ母さん亜樹ちゃんの話はいいじゃないか
、それにそんなに太ってないし」

 本名かどうかもわからない?
 大丈夫だよ、凌介と陸にはほんとうのことを言っている。
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