さくらが散る頃

殺された心

「話してよ、俺、そんな頼りないかな?」

 陸がうつむいて視線を上げる。

「さくら」

 凌介が私を促す。

「凌介は知ってたんだろ、俺だけ知らなかったのかよ」
「いや、俺も全部は知らない、どうもさくらはほんとのことを隠してる、違うか?」

 私は返す言葉に悩んだ。

「警察官としてじゃなくて、友人として聞くよ」
「だってさ、それならいいだろ? さくら」

 出会いからしばらくして凌介は医者を辞めた。
 お気楽に見えていた凌介にだって守りたいものがあって、守れないものがあって、どうしようもないジレンマに陥っていた。

 弱い人は強い。
 人に弱さを見せることができる人間は強い、という意味だ。

 その点で私は弱い。
 誰よりも弱い。

 強く見られることがあるけど私は知っている。
 私は誰よりも弱いこと。

 凌介が見せてくれたその弱さを私が受け止めたとき、私も自分のことを話さなければいけないと思った。
 それはお菓子をもらったからジュースを奢る、とかそういった類のものに似ていた。

 恩や気持ちをそれと同等なもので返すこと、しなくてもいいんだけどしなければいけないと思った。
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