さくらが散る頃

無償の愛

「あ、え、マジそんな感じ?」

「なにが?」

 慌てて小走りでこちらに駆け寄ってきた凌介に眉をひそめて距離をとる。

「マジか」

 うんうん、とひとり得心を得たようにうなずく凌介。

「なにが?」

 もう一度聞く。

「さくらって俺のこと……好きだったのな」

「は?」

「んー、ならもっと早く言ってくれればよかったのにー」

 凌介は肘を三角に折り私の方を小突いてきた。
 私は深く嘆息して「なわけ」と吐いた。
 かなり大きな声で吐いたので聞こえていないわけはないのに凌介は聞こえないふりをしてふふんと上機嫌に両手を頭の後ろに回して組みながら歩きだした。

 凌介は知っている。
 こんなの冗談で私になにか変化があることを。

 それは決断をしたんじゃないかって思っているはずだ。

 なんの決断かまではわからないと思うけど。


 待ち合わせ場所に向かいしばらくすると野島裕之がやってきた。私たちを見つけると手を挙げて小走りで近づき「お待たせしました」と息を上げて言った。

「そんな走らなくても大丈夫でしたのに」
「いえ、お待たせしたら申し訳ないので」
< 77 / 202 >

この作品をシェア

pagetop