公爵様の偏愛〜婚約破棄を目指して記憶喪失のふりをした私を年下公爵様は逃がさない〜
④
あれから数週間、ルーカスは毎日欠かさず私に会いに来た。
彼の立場を考えれば、そんな暇はないと思うのだが、たとえ数十分という短い時間であろうとも、彼が屋敷にこない日はなかった。
そんなルーカスの様子を見て、マリアは能天気に「愛されてますね〜」なんて言ってきたけれど、私はそれどころではない。
だって、毎日毎日、愛の言葉を告げられ、そして真実と異なる私達の話をされるのだから。
幼少期から愛し合っていただの、デートはどこにいったのだの……ましてや、私がルーカスに過度なスキンシップを行っていたなんてことまで言いだすので、色んな意味で心臓がもたない。
(ルーカスに触れたことなんて、幼少期以来一度もなかったというのに!)
あまりにも信じられない話ばかりするので、何度か軽く否定をしようかと思ったが…
聡い彼のことだ、何かのきっかけで私の嘘に気づくかもしれない。
そう思うと、下手に発言することができずにいた。
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「このままでは、全てがルーカスの嘘の通りになってしまうわ…」
机に顔を伏せながら、私は嘆いていた。そんな私の様子を見て、マリアは呆れたように言った。
「そんなに今のルーカス様がお嫌なのでしたら、記憶が戻ったといえばよいではありませんか」
「それは無理よ! 記憶喪失のふりをする前の私達の関係を覚えていないの? 会話もない、周りからの冷たい視線、婚約を申し込んできた当のルーカス本人は何が考えているのかわからずで、ただただ彼の態度に怯えて……婚約解消していない今の状態で記憶が戻ったなんていえば──」
あの日常に戻るなんて、考えただけで恐ろしい。私に笑顔を見せることもなく、話しかけても簡単な相槌だけ。隣に並んで歩くことも、一緒に仲良くお茶を飲むこともない。どれだけ近くにいても、私を全く見ないルーカス。
「──そんなの嫌よ、寂しいもの」
口から出た言葉は予想外のものだった。
(───ん?寂しい?)
私、いま、寂しいと言った?
いやいや、そりゃ幼少期はルーカスの態度に傷ついて、寂しいとか思っていたけど。大人になったいま、そんなこと思うはずない。
きっと突然色んなことが起こりすぎて、気が動転しているだけだ。
何か言ったかとマリアが聞いてきたが「何でもないわ!」と言って、私は首をぶんぶんと横に振った。