公爵様の偏愛〜婚約破棄を目指して記憶喪失のふりをした私を年下公爵様は逃がさない〜
②
記憶喪失のふりして婚約破棄してもらおう計画を思いついたのは、とある雨の日のことだった。
あの日は、婚約者であるルーカスとの月一度の面会をすっぽかされてしまい、一人、時間を持て余していた。
読んでいた本も飽きてしまい、何か新しいものをと、書庫に本をとりにいった。
上段にある本が気になり、わざわざ人に頼むのも面倒なので、近くにあった踏み台に登る。
「危ない」というマリアの制止を振り切って、本に手を伸ばした瞬間──バランスを崩し、なすすべもなくそのまま地面に身体が叩きつけられた。突然の事で痛みで声も出ない。
「ぎゃあああっ!!お嬢様、大丈夫ですか?!」
大声を出しながら駆け寄ってきたマリアに支えられながら、何とか身体を起こす。
「す、すぐに旦那様を、いやお医者様が先?!それともアーレンベルク公爵家へ連絡してルーカス様に──」
「……うぅっ、落ち着いて、マリア。少し落ちただけで大袈裟よ」
「大袈裟なものですか!頭を打ったではありませんか!」
「打ったっていっても…軽くよ」
「あのですね、お嬢様。頭というのはとても大事なのですよ!その昔、階段から落ちて、頭をぶつけ、ご自身のこともご家族のことも、ぜーんぶ忘れてしまったご令嬢もいらっしゃるのですよ!そうなったらどうされるのですか!」
半ば叫びながら訴えてくるマリア。
自分より慌てている彼女を見ていると、何だか落ち着いてきた。身体もまだ少しは痛むが、もう大丈夫だ。
(その昔って、一体いつの話よ…)