公爵様の偏愛〜婚約破棄を目指して記憶喪失のふりをした私を年下公爵様は逃がさない〜

 


 ──住み慣れた我が家のはずが、何だかとても居心地が悪い。


 あの後、突然やってきたルーカスを出迎えて部屋へと通せば、なぜか彼は向かい合わせではなく、隣同士で座るよう指示をした。


 やんわりと断ったが、彼の魔術で強制的に座らされた。その後、お茶を用意するようマリアに伝えにいこうとした私に「必要ない」といって、これまた魔術でティーセットを出してしまった。


(……魔術ってなんて便利で素晴らしいのかしら)


 ──彼が魔術師であることを、今日ほど恨んだことはない。


「……」
「……」


 気まずい空気の中、隣に座るルーカスを見れば、ニコニコと笑みを浮かべている。
 そのまま無言で距離を詰めてくるので、軽く制止しようとすれば「あれ?前に俺に触れられて光栄だっていってなかったけ」なんていわれてしまい、黙って受け入れるしかなかった。


(こんなことになるなら初日に、あんな態度とらなきゃよかった…!)


 手を握ってべったりとくっついてくるルーカス。
 思わず悪態をつきそうになるのをぐっと堪えて、私は重い口を開いた。

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