罪深く、私を奪って。
罪深く、私を奪って。

優柔不断な私

優柔不断な私



コンクリートの壁と大理石の床でできた、洗練された雰囲気の会社のエントランス。
通りに面した大きな窓と高い天井のお陰で、シンプルだけど開放感のあるこの場所は、行きかう人の足音や会話を程よく反響して今日も活気にあふれてる。
そんな中、何度も響くシャッター音。
眩しいフラッシュ。
私に向けられたカメラのレンズから、思わず目を閉じて俯きたくなるのをなんとか堪えて、ぎこちなく笑顔を作る。
早く終わらないかな。
写真撮られるの苦手なんだけど……。
そんな私の気持ちなんてお構いなしにシャッターを切り続ける目の前の男の人が、ようやく満足してカメラを下ろした時には、私はもうぐったりと疲れ切っていた。
「ありがとうございます、野村さん。お陰でいい写真が撮れました」
大きなカメラを手にそう言って頭を下げたのは、広報部の沼田さん。
眼鏡をかけた真面目そうな彼は、今撮ったばかりの写真を、カメラの液晶画面で確認しながら嬉しそうに笑う。
「来月の社内報、楽しみにしていてくださいね」
「あ、はい……」
楽しみにするもなにも、できれば写真なんて載せて欲しくないのに。
社内報の女子社員を紹介するページに私の写真を載せたいという広報部からの依頼。
本当は断りたかったけど、これも仕事のうちだと問答無用で下りてきた上司命令に、まだまだ新米の私が反論できるはずもない。
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