罪深く、私を奪って。

響いた足音

響いた足音



ベッドの中にもぐりこんでみたけれど、眠気がやってくる気配はなくて、私は暗がりの中、ぼんやりと自分の部屋の天井を眺めていた。
ワンルームのアパート。
少し首を動かすだけで、部屋全体が見渡せる狭い室内。
この部屋は自分のお気に入りの物を揃えた、私のためだけの居心地のいい空間だったはずだけど、今日はまったく落ち着かなかった。
何度寝ようと目を閉じてみても眠りは浅く、耳が勝手にアパートの前の道路を行く車の音や風の音を敏感に拾ってしまう。
ベッドの中で悪あがきのように何度も寝返りを打っては、自然とまぶたが重くなるのを待っていたけど、ちっとも眠れる気がしない。
もう寝るのは諦めて、本でも読もうかな。
そう思い、ベッドサイドのフロアライトに手を伸ばそうとした時。
カンカンカン、と外の階段を上ってくる足音が響いた。
隣の部屋の人がどこかから帰って来たのかな。
そう思いながら時計を見ると、午前1時。
アパートの外についている鉄骨の階段は、やけに音が響く。
聞こうとしなくても、その足音はいやでも耳に入ってきてしまう。
コツ、コツ、コツ。
階段を上り終えた足音がドアの前の通路を進んで行くのをぼんやりと聞いていた。
そして、その足音は突然聞こえなくなった。
……あれ?
確かに階段を上ってくる足音がしたのに、どこかの部屋のドアを開ける気配はなかった。
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