罪深く、私を奪って。

彼の部屋

彼の部屋



なんでこの人に電話をしてしまったんだろう。
実家にだって、友達にだって、頼れる人は他にもいたはずなのに。
恐怖の中で携帯電話を手にした時、頭に浮かんだのは石井さんの顔だった。
甘ったれるにもほどがある……。
この人は亜紀さんの彼氏なのに。
それに、私はこの人の事を大嫌いだったはずなのに。
この人だって……。
そう思いながら、そっと隣に座る石井さんの顔を盗み見た。
無言で車の運転をする石井さんの横顔。
その不機嫌そうな表情に、私はすぐに目を反らして俯いた。
アパートの玄関で、うずくまって震える私を抱きしめた石井さんは、そのまま私を抱き上げて、部屋着で素足にミュールをひっかけただけの私を強引に車に乗せた。
驚いて抵抗する私を無視して、乱暴にドアを閉めると無言で車を発進させた。
この車がどこに向かっているのかもわからないまま、私は窓の外を流れていく深夜の街並みを眺めため息をつく。
この人だって、私の事を嫌っているはずなのに。
一体何を考えてるんだろう。
私の態度にイライラすると言いながら、強引にキスをしたりする。
私になんて関心のないような冷たい目をしてるのに、深夜の電話にかけつけてくれたりする。
黙ってろなんて冷たく言うくせに、優しく私を抱きしめたりする。
ねぇ、石井さんは一体何を考えてるの？
なんて、そんな事直接彼に聞けるはずもなく、私はただ黙って俯いた。

< 108 / 193 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop