罪深く、私を奪って。

優しい手のひら

優しい手のひら



いつもより時間をかけ丁寧にしたメイク。
きゅっと高い位置で、きつめに一つにまとめた髪。
憶病になる自分に喝をいれるように、ぴんと背筋を伸ばして受付に座る。
楽しげに笑いながら歩いていく女の子たちを見ると、もしかして……なんて、ネガティブな考えが浮かんでしまうけど。
一人でうじうじ悩んだって仕方ない。
そう言い聞かせて、下を向きそうになる自分を叱る。

時計の針が17時を回ろうとした頃、受付内に置いてある電話が鳴った。
『もしもし詩織ちゃん?』
「あ、永瀬さん。お疲れ様です、どうかしましたか?」
営業部の永瀬さんが受付に電話なんて珍しいな、と思いながら尋ねると、
『ごめんねー、今日俺残業で帰り送れなくなっちゃった』
なぜかそう謝られた。
いや、ごめんねもなにも、送ってもらう約束なんて最初からしてませんけど。
一日中気を張って仕事をしていたせいか、永瀬さんの暢気な声を聞いて、思わず力が抜けた。
『それでさ、俺の代わりに車で送るヤツ用意したから。仕事終わったら休憩室で待ってて』
私が脱力してる間に、勝手に話を進める永瀬さん。
「あ、あの。わざわざ送ってもらわなくても大丈夫です! 私ひとりでちゃんと……」
『じゃ、そういう事だから』
よっぽど忙しいのか、それともわざとなのか。
私の言葉は完全無視で、一方的に話して一方的に電話は切れた。
はぁ……。
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