図書館の地味な女の子は…

11話 小説の中の女の子

放課後。
いつものように、図書室の奥の席にふたりで座る。
今日は、澪の前にノートが広げられていた。

そこには、祐也が書いていた最新の小説。
まだ途中、だけど――澪が「読みたい」と言ったから、思い切って渡した。

祐也は隣で、ソワソワと落ち着かない様子でページをめくる彼女を盗み見ていた。

長いまつげが影を落とし、真剣な目で物語を追っている。
読んでいるのは、自分が書いた世界。でも、彼女が触れていることで、どこか現実味を帯びて感じた。

やがて、澪が静かに顔を上げる。

「……すごく、良かった」

「マジで?」

「うん。登場人物がちゃんと生きてる。……とくに、あの女の子」

「君がモデルだからね。気づいた?」

「……うん」

澪は小さく頷いて、そしてほんの一瞬だけ、寂しそうな表情を浮かべた。

「でも――あの子、最後には消えるんだね」

「……え?」

「祐也くんの書いたあの女の子、好きな人を助けて、自分は姿を消す。
それって、祐也くんの中で、私がそういう存在ってこと?」

「いや、そんなつもりじゃ……ただ、なんとなく物語の流れで」

「――ううん、いいんだ。きっと、そういう未来が、私にも合ってると思うから」

その言葉の意味が、すぐには理解できなかった。
でも、その声の奥には、どうしようもなく“覚悟”みたいなものが滲んでいた。

「……澪」

「私ね、好きだったの。誰かのために何かすること。
でも、それが当たり前になると……自分がどこにいるのか、わかんなくなるの」

その言葉が、祐也の胸をざわつかせた。

――誰かのために、何かをする。
それが、当たり前になると。

まるで、“仕事”みたいに。
――使命みたいに。

「ごめん、変なこと言った。小説、すごく嬉しかった。ありがとう」

そう言って、澪はノートを静かに閉じた。

その仕草が、なぜか“終わり”のように感じて、祐也は少しだけ、胸を締めつけられた。
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