図書館の地味な女の子は…

12話 目を逸らす

お、なんやなんや。ふたりしてえらい真剣な顔して読書タイムか?」

突然、背後から聞き慣れた関西弁が飛んできた。

「大毅……!」

振り返ると、大きな体をのぞかせて大毅がニヤリと笑っていた。
どうやら気配を殺して近づいてきたらしい。というか、絶対わざとだ。

「なんや、俺にナイショでラブラブ読書会かいな?ずる〜」

「うるさい。タイミングってもん考えろよ……」

祐也は眉をひそめながらも、ノートを隠すことはしなかった。
なぜなら、それはもう澪に渡したものだったから。

「……これ、小説?お前が書いたやつ?」

「うん。でも途中だから、あんまり――」

「貸してみ。どんなん書くか気になってたんや。まさか、零がモデルのヒロインとかやないやろな?」

「っ……」

大毅は悪戯っぽく笑いながら、ノートをめくって読み始めた。
けれどその表情はすぐに変わった。

眉をひそめ、唇を引き締めて、真剣に読み進めていく。

「……なんやこれ……。この子、“誰かのために、姿を消す”って――」

「さっき、それが澪に似てるって話してたんだ」

「なるほどなぁ」

大毅はノートを閉じて、ふっと息をついた。

「祐也、これはすごいで。お前、ほんまに書ける人間や。めっちゃ感情が伝わってきた」

「まじかありがとうな」

「せやけど、ちょっと気になるとこもあったな。あの女の子が……人を“守る”って部分。描写がやけにリアルやった」

「リアル?」

「うん、なんちゅうか、“経験”がにじみ出とる。普通の高校生には書けへん描写や。まるで、実際に見てきたか、隣におるか、やな」

その言葉に、祐也は言葉を失った。

澪も何も言わずに、ただ静かに本を閉じたまま、遠くを見つめていた。

「……まぁ、深く考えんとくけどな」

大毅はそれ以上何も言わず、祐也の肩をぽんと叩いた。

「この物語、最後まで読ませてな。完成したら、絶対見せてくれよ」

そう言って、図書室の棚の向こうへ姿を消していった。

残されたのは、祐也と澪、そして開かれたままの小説ノート。

祐也の胸には、大毅の言葉が深く残っていた。

――“経験がにじみ出とる”。

彼女は、何を見てきたんだろう。

でも祐也は、その答えを追いかける勇気を、まだ持てなかった。
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