図書館の地味な女の子は…

13話 3人で

大毅がノートを閉じて、真剣な顔つきで祐也を見たあと――
ふいに、少し照れくさそうに頭をかいた。

「……ほんまはな、祐也に冷やかしに来たわけやないんや。ちゃんと伝えに来たことがあってな」

「え? なんか用事?」

「今日な、うちのオカンが言うとってん。“久しぶりに澪ちゃんとご飯食べたいわ~”って。で、迎えに来たんや」

「……え?」

祐也は思わず聞き返した。
まるで“家族みたいな関係”を聞かされたみたいで、胸の奥がざわついた。

澪は一瞬だけ目を丸くしたあと、ふっと優しく笑った。

「……うん、行く。久しぶりに、カレー食べたくなった」

「おっしゃ、決まりやな!」

明るく笑う大毅。その様子に、祐也は微妙な感情を飲み込めずにいた。

「……澪って、大毅ん家と仲いいんだな」

そう言うと、大毅は肩をすくめて笑った。

「うちの母さんがな、澪のこと昔から可愛がっててさ。なんや、ほっとかれへん存在らしいわ。
幼稚園の頃からずっと一緒やし、もう半分家族やで」

「……そっか」

心のどこかが引っかかる。
“祐也だけが知っている”と思っていた澪の表情が、実は他の誰かにも見せられていたものかもしれないという事実が。

そんな祐也の表情を見たのか、大毅がぽん、と軽く祐也の肩を叩いた。

「なあ、祐也も来たらええやん」

「……は?」

「うちの母さん、お前のこともめっちゃ気に入っとるし。
カレーなら多めに作るやろしな。来たら喜ぶで?」

「いやでも、空気壊すかなって……」

「なんやそれ。お前が来るのに“空気”とかいらんやろ。
なぁ、澪?」

澪は祐也を見つめ、小さく笑った。

「……いいと思う。祐也くんが来てくれたら、嬉しい」

その言葉に、祐也の心が跳ねた。

“嬉しい”――
その一言が、こんなにも心を揺らすなんて思わなかった。

「……じゃあ、行くわ。お邪魔します」

「よっしゃ、決まりやな!」

大毅が明るく笑って、図書室の出口を指差す。

「うわぁ3人で俺ん家来るとかめっちゃ楽しみやねんけどはよ帰ろや!!」



三人は並んで図書室を後にした。
廊下の光が伸びて、三つの影が長く重なっていた。

その影のひとつ――春川澪だけが、ほんの少しだけ沈んだ目をしていたことに、祐也はまだ気づいていなかった
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