図書館の地味な女の子は…

19話 作戦

週末まで、あと三日。

放課後の教室。窓から差し込む夕日が教室の床に長く影を落としている中、祐也と大毅は机を並べて、小声で話していた。

「で、どうするん? マジでうち来るって考えて動かなアカンやろ?」

「うん。警察に言うのも考えたけど……証拠もないし、まだどこかで信じてる自分もいる」

「……複雑やな」

大毅はため息をつきながら、スマホを取り出して言った。

「とりあえず、防犯アプリと……あとGPSのやつ、入れとくか」

「GPS?」

「うん。お前が見てくれたほうが早いやろ? もしまた澪が変な動きしたとき、すぐ知らせられるし」

「……それ、大丈夫? 入れても」

「俺、自分の居場所監視されんの好きちゃうんやけど……しゃあないやん、命には代えられへん」

そうぼやきながらも、大毅はしぶしぶアプリをインストールした。



「見つからないようにしろよ……絶対に」

そんな会話をしていると――

「何話してるの?」

不意に後ろから声がした。

二人がびくりと振り返ると、そこには澪が立っていた。
いつもの無表情。だけどどこか、その声のトーンが低く、妙な緊張感を孕んでいた。

「あ……零」

「ふたりとも、やけにこそこそ話してるから。……気になって」

祐也は一瞬、言葉に詰まる。
大毅も、気まずそうに笑ってごまかした。

「あー、いや! ちゃうねん! 週末、こいつがうち来るっちゅーから、何のゲームしよか~ってな? なぁ、祐也!」

「……うん、そうそう。なんか、おすすめある?」

澪はじっとふたりを見つめたまま、一瞬の沈黙のあと――ふっと微笑んだ。

「……ふーん。楽しそうだね私も行っていい?」

その笑みが、祐也の背筋を冷たく撫でた。


引っかかったな


「もちろんや来い来い!」

大毅は引きつった笑顔でそう答えた

「じゃあ、また明日ね」

澪は静かにその場を離れていく。
その背中を見送りながら、祐也と大毅は黙ったまま、互いの顔を見合わせた。

「あー怖ほんま寿命縮まるわ」

「やばかったな」

「俺、ちょっとほんまに怖なってきたまさかほんまに家来る思わんかったやば俺まだ死にたない」

「しっかり作戦を練ろうじゃないとやばいな」

夕焼けが、教室の中を血のような色に染めていた。
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