図書館の地味な女の子は…
23話 BAD END
午前2時
三人は同じ部屋で眠りについていた。
互いに一定の距離を取りながら、祐也・零・大毅は横になっていた。部屋の空気は、静かで……妙に重かった。
時計の針は、深夜2時を回っていた。
――そのとき。
“スッ”
まるで風が通り抜けるような、ごく僅かな気配が空気を震わせた。
祐也のまぶたが、うっすらと開く。
視界の端。誰かが、ゆっくりと上半身を起こした。
零だった。
目を閉じたままの祐也の心臓が、バクン、と大きく跳ねた。
(……来た)
暗闇の中、零は立ち上がる。寝ていたときとは違う、どこか異質な“何か”がその動きに宿っていた。感情のない人形のようだった普段の彼女とは違う、静かな興奮に満ちた何か――まるで“違う誰か”。
彼女はそっと、ポケットに手を入れる。
そこから、ひときわ冷たく鈍い光を放つ金属が姿を現した。
あの時もみた同じもの
ナイフだった。
(ダメだ、ダメだ……!)
祐也の全身が悲鳴をあげる。
けれど今、下手に動けば――零に気づかれる。
そして次に狙われるのは自分だ。
(……でも、大毅が!)
その“彼”は、祐也の隣で、静かに寝息を立てている。
パニックと恐怖が一気に祐也の中を駆け巡る。
その瞬間だった。
「やめろ……!!」
祐也は怒声とともに体を起こし、零に飛びかかった。彼女の手からナイフをもぎ取り、床に叩きつける。
「ふざけんなよッ!! なんで……なんでこんなことするんだよ!!!」
祐也は零を押し倒し、泣き叫んだ。
だが、返ってきたのは――笑い声だった。
「やっぱり、来たねぇ、祐也くん」
それは、零の声ではなかった。
いつもの冷たく静かな声ではない。狂気と愉悦に満ちた、異常な“もう一人の零”の声。
「惜しかったなあ。あと少しだったのに。もうちょっとで、“完璧”だったのに!」
「……っ……」
「ヒュ……ッ、ヒュ、……ッ、ヒュー……」
大毅から聞こえるこの寝息
異様な呼吸音。それは、まさに死戦期呼吸――死の直前身体が最後の力を振り絞るように行う呼吸だった。
「大毅っっ!!」
そのとき、大毅の体がぴくりと動いた。祐也が顔を上げて確認する。
だが――もう遅かった。
彼の胸は、二度と上下することはなかった。
「……っ、うああああああああああっっっ!!」
祐也の叫びが、夜の闇を裂いた。
涙が止まらなかった。止まるはずがなかった。
大毅はもう、戻ってこない。
「……大毅っおいだいきっごめん、ごめんなっ!」
祐也は泣きながら、大毅の体を抱きしめた。
「手遅れだね大毅は30分前から瀕死だよよく持ったほうだよ無能な味方のせいで死んじゃったあーらら」
その背後に、再び“あの足音”が近づく。
「辛いねぇもう、終わりにしようね?」
次の瞬間、鋭い痛みが胸を突き破った。
ナイフが――深々と、祐也の心臓に突き刺さっていた。何度も何度も。
血が喉から溢れ出し、視界が赤黒く染まっていく中――最後に見えたのは、微笑む零の顔だった。
「さよなら」