図書館の地味な女の子は…

27話 消えない恐怖

「春川零という存在は……明確に言えば、“妄想”に近いものです」

俺は目覚めたあと医師からの提案で精神科に通うことになった

精神科の静かな診察室で、医師は穏やかに言った。

「けれど、それを単なる病気として切り捨てることはしません。彼女は、あなたの心が創り出した、感情そのもの。恐怖、孤独、そして創作への衝動……それらが“零”という姿になって、あなたの前に現れたんです」

「……でも」

祐也は、膝の上で組んだ手をじっと見つめた。

「まだ、時々……いるんです。誰もいない場所で、振り返りたくなる。背中に冷たい風が吹くような、そんな感覚が」

「それでも構いません。まずは、“零は存在しない”と自分に言い聞かせること。それを何度も、丁寧に繰り返していきましょう。現実を確認するという意味でも」

祐也は頷いた。

何度も、通院は続いた。最初のうちは、夢にうなされて起きることもあった。
幻聴のように、あの“無表情な声”が耳元で囁く夜もあった。

けれど。

半年が過ぎた頃――ふと、ある夜に“夢を見なかった”ことに気づく。
そしてそれは、静かに祐也の心を軽くしていた。
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