図書館の地味な女の子は…

3話 進展

その日も、図書室は静かだった。

窓の外では風が校舎を撫でている。
祐也はいつもの席に座っていた。彼女は、少し離れた窓際の席に。

ふと、視線が合った。
ほんの数秒。けれど、その数秒が、妙に長く感じた。

そして気がつけば、祐也の体は勝手に立ち上がっていた。
気づけば彼女の席の前に立っていた。

「えっとさ……」

声をかけた瞬間、喉が詰まった。
何を言うつもりだったんだ俺は。話題?目的?理由?全部後回しで来てしまった。

彼女は、読んでいた本から目を上げた。
そして、少しだけ首を傾ける。

「……何?」

たったそれだけの言葉なのに、心臓が跳ねた。

「えっと……その本、好きなの?」

彼女は表情を変えず、少しだけページを閉じて表紙を見せた。すごく胸が高鳴った。
それは、静かなミステリー小説だった。

「……まあ、嫌いじゃない」

たどたどしい会話。でも、それでもいい。

「俺、今、小説書いてるんだ。全国の大会に出ることになってて」

彼女は少しだけ目を見開いた。それが驚きだったのか、興味だったのかはわからない。

「……そうなんだ」

それきりだった。沈黙が戻る。でも、不思議と嫌な感じじゃなかった。

「じゃ、また話してもいい?」

「…うんっ」

ほんの少し、ほんの少しだけ、彼女の声が柔らかくなった気がした。

その瞬間、祐也の中で何かが音を立てて動き出した。
今まで物語の中だけだった“彼女”が、少しずつ現実になっていく気がして―
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