図書館の地味な女の子は…

4話 突然の邪魔

次の日も、図書室は変わらず静かだった。
風の音、ページをめくる音、遠くで鳴るチャイムの残響。
だけど祐也の胸の中だけは、少しざわついていた。

彼女は、昨日と同じ席に座っていた。
相変わらず無表情で、本に目を落としている。
でも――もう、遠い存在じゃない。

祐也は勇気を出して、彼女の隣に歩いていった。

「よっ!」

彼女は顔を上げて、少しだけ首をかしげた。

「あ、いつもの、」

「ちょっと、今日も話せたらいいなって思ってどう?」

彼女は一瞬だけ無言になって、そして小さく「いいよ」と呟いた。
それだけで祐也の心は少し跳ねた。

「名前、聞いてもいい?」
思い切って口に出した。少し勇気が要った。でも、このまま“彼女”のままでいるのが嫌だった。

彼女は目を伏せ、ほんの少しだけ間を置いた。

「……春川」

「春川?」

「春川澪(はるかわ みお)」

その名前を聞いた瞬間、祐也の胸の中に、知らなかった感情がふわっと広がった。
“春川澪”――それは今まで祐也が書いてきたどんな登場人物の名前より、しっくりきた。

「俺は、高橋祐也。祐也って呼んでいいよ」

彼女は、少しだけ目を細めた。笑った、ようにも見えた。

「……裕也くん」

それは、とても小さな声だったけれど、祐也にははっきりと届いた。
そしてその瞬間から、彼の物語はまた一歩、現実に近づいていく――。

……が、その空気は、突然破られた。

「おーい祐也ーっ! いたいた!」

図書室の静寂をぶち壊すように、大きな声が響いた。
入り口に立っていたのは祐也の親友、佐藤大毅。
バスケ部所属で、明るくて、元気で……そして、こいつは空気が読めない。

「マジで探したってぇ! また図書室でひきこもっとんのかぁ? たまには外で遊ばなあかんて!なぁ!って、うわ、女の子と二人? だれ!? 彼女?かわいなに!?」

澪は少し笑みを浮かべ、静かに本に目を戻した。
祐也は頭を抱えた

「タイミング悪、大毅!今ちょっと、大事な話してるから……また後で」

「…あ、すまん悪い、じゃあ後でな!聞かせろよ!!」

大毅は笑顔で、手をひらひらと振って図書室を出ていった。

再び、静寂。

「ごめん、うるさかったよな。あいつ、ああ見えて悪いやつじゃないんだけど」

澪はまた、ほんの少し首を振った。

「面白かったよ」

それだけだった。けれどその一言が、妙に嬉しかった。

小さなやりとりのひとつひとつが、心に残っていく。
澪の声が、表情が、祐也の中に確かに根を下ろしていった
< 4 / 28 >

この作品をシェア

pagetop