図書館の地味な女の子は…

5話 嫉妬に似た感情

次の日の放課後、祐也はいつものように図書室に向かうつもりだった。
けれど、昇降口を出た瞬間、その足がふと止まる。

校門の先、並んで歩く二人の姿が目に入った。

――澪と、大毅だった。

ふたりは自然に歩いていた。会話はしていないように見えたけど、その距離は近くて、澪の表情も柔らかかった。

「……あれ?」

無意識に声が漏れる。

「え、なんであいつと……?」

普段なら、祐也はああいう場面を見れば、全力で走って行って大毅に体当たりするのが定番だった。
「おいバカ、大事な話の途中だったんだぞ!」って冗談半分に怒鳴って、笑い飛ばせた。

でも――今日は、足が動かなかった。
胸の奥に、言葉にできない何かが渦を巻いていた。

(なんだよ……なんであいつと)

知らなかった。ふたりが知り合いだなんて。
いや、それどころか――。

(……まさか、幼馴染?)

祐也の中で、モヤモヤが膨らんでいく。
理由なんてわからない。ただ、心の中が少しずつ、ざらついていくのがわかった。

自分でも驚くくらいに、イラッとしていた。

「……うわ、俺、なに嫉妬してんだよ……」

誰にも聞かれないように、唇の裏側で呟いた。
でもその言葉が、一番祐也の心に刺さった。

春川澪。昨日、ようやく名前を知ったばかりの女の子。
それなのに、もうこんな気持ちになるなんて、ズルい。

図書室には向かわなかった。
代わりに、祐也は一人、校舎裏のベンチに腰を下ろし、持っていたノートを開いた。

「……よし。書こう」

感情があふれそうだった。だから、物語にぶつけるしかなかった。

彼女の横顔。彼女の声。彼女の名前。
全部、物語の中で、もう一度確かめたくなった。
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