図書館の地味な女の子は…

6話 過去と今

次の日の昼休み。
屋上へと続く階段の踊り場で、大毅はパンをかじりながら祐也を待っていた。

「おそー、祐也。パン売り切れ?」

「悪い、悩んでたらタイミング逃した」

祐也は軽く笑いながら、大毅の隣に腰を下ろす。
でも内心は、昨日からの引っかかりが消えていなかった。

「なぁ、大毅」

「ん?」

「春川さん……って、知り合いだったんだな」

「ああ、零(れい)やろ?あの子、幼馴染やねん。家近かったから、小さい頃よう一緒に遊んどったで」

「そっか……」

(やっぱりか)と、どこか納得しつつも、祐也の胸には微かな痛みが残った。

「でも、最近はあんま話してへんかってんけど。昨日はたまたま下駄箱で会うて、『久しぶり』ってなった」

「……そういえばさ」

祐也はふと思い出して、少し身を乗り出した。

「この前、図書室で俺と澪が話してるとき、お前来たろ? あのとき春川さんのこと、知らんふうやったけど――なんで?」

「ん? ああ、あれか。後ろ姿やったやん? しかもあの子、雰囲気めっちゃ変わっててん。無表情で、本に埋もれとるし、そりゃ気づかんて」

大毅は笑いながら、パンの残りを頬張る。

「それに、まさか澪が図書室におるとも思わんかったしな。あの子、昔はどっちかって言うたら外で走り回るタイプやったんやで? 今あのの落ち着きぶり、ビビるわ」

「へぇ……意外だな」

「せやろ? 人って変わるんやなあ」

その言葉に、祐也は少し黙り込んだ。
澪の“今”しか知らない自分と、澪の“昔”を知っている大毅。

同じ学校にいても、見てる景色が違うんだ――そう思った。

「でも、気づけへんくらい集中してたんやなぁ、祐也。あのときの目、めっちゃ真剣やったし。……あれやな、もう完全に好きな子見る目やったわ」

「……ちがっ」

「はいはい、言い訳無用~。ほら、顔赤なってとるで?」

大毅は口を大きく開けて笑う

「うるさい」

言葉は跳ね返しても、心のどこかが図星だった。
名前を知って、声を聞いて、昨日より今日、今日より明日と、確実に春川澪が祐也の中で大きくなっていく。

そんな自分を、もう否定しきれなかった。
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