図書館の地味な女の子は…

7話 3人の時間

放課後の図書室。
静かな空間に、ページをめくる音だけが響いていた。

祐也は、ノートの上でペンを走らせる。
その隣には、春川澪。今日もいつもの席で、本を静かに読んでいる。

そんな空気を破ったのは、やっぱりこの男だった。

「おーっす、祐也、澪! やっぱおったか!」

図書室の扉を開けて、ドタドタと入ってきたのは佐藤大毅。
バスケ部仕込みの声量と勢いで、祐也は思わずペンを止めた。

「大毅うるさい!」

「ええやんか、ちょっとくらい。なんや、また二人でいちゃこらしとったん?」

「あ??」

澪は笑いもせず、ただ「こんにちは」と軽く会釈した。
その落ち着いた態度が、逆に大毅のテンションをさらに上げる。

「ほらな!祐也、あれやで。その静かなやりとりの中に“気配”あるねん。甘酸っぱいやつな?」

「帰れってマジで」

「帰らんて。たまには俺も混ぜてや。ほら、せっかくの縁やん?三人で話すんもええと思うで?」

祐也はため息をつきつつも、澪に目を向ける。
彼女は特に嫌そうな素振りもせず、本を閉じた。

「いいよ」

その一言に祐也の肩が、少しだけ緩んだ。

「なー、澪。祐也の小説って見たことある?」

「ううん。まだ。読ませてくれないから」

「マジか、お前隠すタイプか!」

「……まだ完成してないんだよ。中途半端なもん見せたくないだけ」

「なるほどな。そういうとこ、こいつ真面目やからな」

大毅は頷いてから、ふと昔を思い出すように澪を見る。

「けど、ほんま変わったよな、澪。昔はもっとガキみたいな感じやったのに。祐也、信じられへんやろ?」

「え、マジで?」

「うん……。昔は、よく木登りして落ちたりしてた」

「それはそれで見てみたいな……」

澪がほんの少し笑った。その表情に、祐也の心臓が跳ねる。

「なぁ、これってつまりさ」

唐突に大毅が口を開く。

「小説に夢中な男子と、昔はおてんばで今はクールな読書少女と、その幼馴染っていう三角関係になるんちゃん?」

「は!? なんでお前が第三の男ポジションなんだよ!」

「ちゃうちゃう、俺はナレーション的な立場や。空気をかき回す狂言回し的な?ほら、俺おらんと盛り上がらんやろ?」

「大毅は昔から分からないね」

祐也が呆れたように頭を抱えると、澪は声を出して笑っていた。
でも、そこには確かな“楽しさ”があった。

いつも静かな図書室。
だけど今日は少しだけ、騒がしくて――心地よかった。
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