図書館の地味な女の子は…
8話 彼女は一体
図書室の空気は少し騒がしく、けれど心地よかった。
祐也は、久しぶりに“書くこと以外”のことで頭がいっぱいになっていた。
澪のこと。大毅の無神経なひと言。
それでも、楽しかった。――たしかに、楽しかったはずだった。
図書室を出たのは、日が暮れかけた頃。
「じゃあ、俺、部活行ってくるわ。祐也、澪、また明日な!」
大毅が手を振って走り去る。
祐也と澪は、並んで校舎の外を歩いていた。
「……あいつ、ほんと空気読まないよな」
「でも、嫌いじゃない。明るいのって、いいことだと思う」
「春川さんって、そういう明るいタイプと友達になる感じには見えないけどな」
「……あれは特別。昔から一緒だったから」
そう言うと、澪は不意に立ち止まり、ポケットから何かを取り出した。
小さな、銀色の……何か。
祐也は気づかなかった。でも、それは“普通の高校生”が持っているものじゃなかった。
ほんの一瞬、その物が陽の光に反射して、鈍く光った。
「あ、ごめん。これ、忘れてた」
澪は小さなケースのようなものを、制服の内ポケットにしまった。
何事もなかったかのように、歩き出す。
「……それ、何?」
「え?」
「さっきの銀のやつ。ちょっと見えたけど……あれ、なんか工具?」
澪はほんのわずかだけ、口元を引き結んだ。
「……趣味。組み立て系のキットとか、好きなの精密なやつ」
「へぇ、なんか意外」
「よく言われる」
淡々と、でもそれ以上は言わせないような空気で話を終わらせた。
でも祐也の中に、ひっかかりが残った。
あの“工具”……いや、工具なのか?
どこかで見たような、けれど思い出せない。普通の文房具でもなかった。
――“あんなもの”を持ってる女子高生なんて、見たことがない。
「…春川さんって、ほんとに、普通の高校生?」
思わず口をついて出たその言葉に、澪はピタリと足を止めた。
そして、振り返る。
表情は、いつものまま。だけど……目だけが、ほんの少しだけ鋭くなっていた。
「――なに?どう思うの?」
それは、冗談とも本気ともつかない声だった。
「……いや、なんでもない。忘れて」
「ふふ……へんなの」
そう言って歩き出す澪の背中を、祐也はただ見つめるしかなかった。
胸の中に芽生えた違和感。
それはまだ、物語の“入り口”にすぎなかった――。
祐也は、久しぶりに“書くこと以外”のことで頭がいっぱいになっていた。
澪のこと。大毅の無神経なひと言。
それでも、楽しかった。――たしかに、楽しかったはずだった。
図書室を出たのは、日が暮れかけた頃。
「じゃあ、俺、部活行ってくるわ。祐也、澪、また明日な!」
大毅が手を振って走り去る。
祐也と澪は、並んで校舎の外を歩いていた。
「……あいつ、ほんと空気読まないよな」
「でも、嫌いじゃない。明るいのって、いいことだと思う」
「春川さんって、そういう明るいタイプと友達になる感じには見えないけどな」
「……あれは特別。昔から一緒だったから」
そう言うと、澪は不意に立ち止まり、ポケットから何かを取り出した。
小さな、銀色の……何か。
祐也は気づかなかった。でも、それは“普通の高校生”が持っているものじゃなかった。
ほんの一瞬、その物が陽の光に反射して、鈍く光った。
「あ、ごめん。これ、忘れてた」
澪は小さなケースのようなものを、制服の内ポケットにしまった。
何事もなかったかのように、歩き出す。
「……それ、何?」
「え?」
「さっきの銀のやつ。ちょっと見えたけど……あれ、なんか工具?」
澪はほんのわずかだけ、口元を引き結んだ。
「……趣味。組み立て系のキットとか、好きなの精密なやつ」
「へぇ、なんか意外」
「よく言われる」
淡々と、でもそれ以上は言わせないような空気で話を終わらせた。
でも祐也の中に、ひっかかりが残った。
あの“工具”……いや、工具なのか?
どこかで見たような、けれど思い出せない。普通の文房具でもなかった。
――“あんなもの”を持ってる女子高生なんて、見たことがない。
「…春川さんって、ほんとに、普通の高校生?」
思わず口をついて出たその言葉に、澪はピタリと足を止めた。
そして、振り返る。
表情は、いつものまま。だけど……目だけが、ほんの少しだけ鋭くなっていた。
「――なに?どう思うの?」
それは、冗談とも本気ともつかない声だった。
「……いや、なんでもない。忘れて」
「ふふ……へんなの」
そう言って歩き出す澪の背中を、祐也はただ見つめるしかなかった。
胸の中に芽生えた違和感。
それはまだ、物語の“入り口”にすぎなかった――。