図書館の地味な女の子は…
9話 異変
澪と別れたあとも、あの“銀色の何か”がずっと頭から離れなかった。
ただの工具。澪はそう言っていたけど、どこか嘘っぽかった。
あの瞬間だけ、少しだけ口調に棘があった気がした。
次の日、祐也は図書室に行かなかった。
その代わり、澪のことを――「春川澪」について、調べようと決めた。
まず向かったのは、生徒指導室の掲示板。行事の写真や、生徒会の報告が貼られている場所だ。
――いない。
去年の行事写真に、澪の姿はどこにもなかった。
体育祭、文化祭、合唱コンクール。全部の集合写真に、彼女はいない。
出ていない? それとも、写りたくなかっただけ?
でも、不自然だった。
この学校は出席率の管理にうるさい。何度も欠席してたら、すぐに生活指導の対象になる。
でも澪がそうだとは聞いたことがない。
「……おかしいよな」
ブツブツ呟きながら、祐也は別の方法を試すことにした。
――大毅に聞く。幼馴染なら、なにか知ってるはずだ。
放課後、部活帰りの大毅をつかまえる。
「おー、どうしたん? 今日は図書室ちゃうの?」
「ちょっと、聞きたいことがあってさ。……春川澪について」
「……なんや、いきなり」
「昔からの幼馴染って言ってたよな? じゃあ、どんな子だったか教えてくれないか?」
大毅はしばらく黙ったあと、ぽりぽりと頭をかいた。
「昔の話かぁ……澪はな、たしかにおてんばやったで。よー木登ったり、ケンカしたり、誰にでもズバズバ言うような子やった。正直、今の無口で静かな澪からは想像つかんけどな」
「なんか、きっかけとか……あったのかな?」
「……うーん。あ、でもな。中学の途中から急に変わった気ぃするわ。しゃべらんようになって、あんま人前にも出んくなってな。そんとき澪の家、なんかゴタゴタあったって聞いたけど……」
「家のゴタゴタ?」
「詳しいことは知らんけどな。親がどっちもいなくなって、親戚のとこ預けられたとか、そういう噂や」
祐也は心の中に、ひとつの違和感がさらに膨らんでいくのを感じた。
“親がいない。誰にも話しかけない。銀の道具。出席してるのに、学校行事には写らない。”
――まるで、自分の存在を“見せないようにしてる”みたいだ。
そんなことを考えていた祐也の頭の中に、ふとよぎった言葉がある。
『どう思う?』
あのとき澪が返してきた、曖昧で、けれど少しだけ“挑むような目”。
「……なあ、大毅。澪ってさ」
「うん?」
「――“本当に高校生”なのかな」
その言葉に、大毅は目を丸くして笑った。
「なに言うてんねん。マンガの見すぎや疲れてんのか?」
でも、祐也は笑えなかった。
「昨日あの子忘れ物とか言って銀色の何かを持っててそれがなんだか聞いたら聞かない方がいいって言われてさ」
「へ〜ちょっと気になんなぁそれナイフやったりして」
がはははと大毅は笑って言ったがほんとにそう思えて怖かった
なぜだか、本能が告げていた。
春川澪は――ただの女子高生じゃない。
ただの工具。澪はそう言っていたけど、どこか嘘っぽかった。
あの瞬間だけ、少しだけ口調に棘があった気がした。
次の日、祐也は図書室に行かなかった。
その代わり、澪のことを――「春川澪」について、調べようと決めた。
まず向かったのは、生徒指導室の掲示板。行事の写真や、生徒会の報告が貼られている場所だ。
――いない。
去年の行事写真に、澪の姿はどこにもなかった。
体育祭、文化祭、合唱コンクール。全部の集合写真に、彼女はいない。
出ていない? それとも、写りたくなかっただけ?
でも、不自然だった。
この学校は出席率の管理にうるさい。何度も欠席してたら、すぐに生活指導の対象になる。
でも澪がそうだとは聞いたことがない。
「……おかしいよな」
ブツブツ呟きながら、祐也は別の方法を試すことにした。
――大毅に聞く。幼馴染なら、なにか知ってるはずだ。
放課後、部活帰りの大毅をつかまえる。
「おー、どうしたん? 今日は図書室ちゃうの?」
「ちょっと、聞きたいことがあってさ。……春川澪について」
「……なんや、いきなり」
「昔からの幼馴染って言ってたよな? じゃあ、どんな子だったか教えてくれないか?」
大毅はしばらく黙ったあと、ぽりぽりと頭をかいた。
「昔の話かぁ……澪はな、たしかにおてんばやったで。よー木登ったり、ケンカしたり、誰にでもズバズバ言うような子やった。正直、今の無口で静かな澪からは想像つかんけどな」
「なんか、きっかけとか……あったのかな?」
「……うーん。あ、でもな。中学の途中から急に変わった気ぃするわ。しゃべらんようになって、あんま人前にも出んくなってな。そんとき澪の家、なんかゴタゴタあったって聞いたけど……」
「家のゴタゴタ?」
「詳しいことは知らんけどな。親がどっちもいなくなって、親戚のとこ預けられたとか、そういう噂や」
祐也は心の中に、ひとつの違和感がさらに膨らんでいくのを感じた。
“親がいない。誰にも話しかけない。銀の道具。出席してるのに、学校行事には写らない。”
――まるで、自分の存在を“見せないようにしてる”みたいだ。
そんなことを考えていた祐也の頭の中に、ふとよぎった言葉がある。
『どう思う?』
あのとき澪が返してきた、曖昧で、けれど少しだけ“挑むような目”。
「……なあ、大毅。澪ってさ」
「うん?」
「――“本当に高校生”なのかな」
その言葉に、大毅は目を丸くして笑った。
「なに言うてんねん。マンガの見すぎや疲れてんのか?」
でも、祐也は笑えなかった。
「昨日あの子忘れ物とか言って銀色の何かを持っててそれがなんだか聞いたら聞かない方がいいって言われてさ」
「へ〜ちょっと気になんなぁそれナイフやったりして」
がはははと大毅は笑って言ったがほんとにそう思えて怖かった
なぜだか、本能が告げていた。
春川澪は――ただの女子高生じゃない。