ぐーたら令嬢は北の修道院で狂犬を飼う
 あー、怠惰、怠惰。
 わたしは三度の飯より、昼寝が好き。
 ふかふかの柔らかい布団でゴロゴロするのが、大好き。
 二度寝は必須。あの起きるか起きないかと悩みながら、布団の中に戻る瞬間が大好き。
 わたしは死ぬまでダラダラと気ままに生きたい。
 そんなわたしの人生を揺るがすイベントが、今まさに起きている。

「聞いているのか? ミランダ」
「そんな大きな声を出さなくても、聞こえておりますわよ。イーサン殿下」

 テーブルを挟んだ距離で、イーサン殿下がわたしを睨む。この至近距離で怒鳴るなんて愚の骨頂。
 なによりもカロリーを消費しすぎだわ。聞いているこちらまで疲れるし、いいことはない。
 イーサン殿下の隣に座るふわふわピンクヘアーの男爵令嬢が、瞳を潤ませてイーサン殿下を見上げた。

「殿下、やっぱり私が王太子妃だなんて……」
「何を言うんだ。こんな女よりも心優しいエミリアのほうが王太子妃にふさわしいに決まっている」
「殿下……!」

 二人は見つめ合い、今にもキスでもしそうな勢いだった。
 わたしは思わず咳払いをする。目の前でメロドラマを見せられるだなんてたまったものではないわ。
 それに、時間は有限。わたしは早く屋敷に戻ってゴロゴロしたい。

「つまり、殿下はそちらの令嬢とご結婚したいと」
「ああ、そうだ」
「愛人ではだめですの?」
「あ、愛人!?」
「愛人でしたら構いませんわよ? その子との子どもをわたしたちの子として、王位継承権も与えますわ」

 わたしとイーサン殿下の婚約は、幼いころから決められていた。
 正直、王太子妃に興味はなかったけれど、親が決めたことを覆すだけの労力をわたしは払いたくなかった。だって大変だもの。しかも新しいお相手を探さないといけないわけでしょう? 面倒よね。
 恋愛って時間もカロリー使いそうじゃない? そういうのは避けたいわ。
 だから、わたしは幼いころから王太子妃となるために、準備してきた。
 なのに今更、この席を明け渡せと言ってくる。それなら、結婚が決まった十年前に言ってくれればよかったのよ! そうしたら、わたしの労力は最小限で済んだわ!
 イーサン殿下はテーブルを両手で叩き立ち上がった。
 いちいち行動が大袈裟で嫌になっちゃう。大袈裟なのは今に始まったことではないけれど。

「エミリアを愛人にしろというのか!?」
「ええ、わたしは構いませんわよ?」
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