だって、お姉様お望みの悪女ですもの
第4章

06



 ウィリアムの隣で肩を並べるイザベルは外廊下を歩いていた。夜だと言うのに今夜は月が明るく、周りがよく見える。
(夜は孤独を感じていたけど今夜は違う。隣に彼がいるからかしら?)
 イザベルはちらりとウィリアムを盗み見る。彼のお陰で悪女の噂を払拭し、婚約破棄での立場も逆転させられた。

 イザベルは一週間前を振り返る。
 アデルとロブの浮気がまだ続いていると知ったあの日。憔悴した顔で生物準備室へ向かった。実験をしていたウィリアムはイザベルの異変にすぐに気づいて、何があったのか尋ねてくれた。
 一人で抱えきれなくなっていたイザベルは、洗いざらいウィリアムに話した。

『なんだかどうでもよくなったわ』
 卒業パーティー当日に二人は自分たちが有利になるように話を進めてくるだろう。イザベルがどれだけ無実を訴えても、これまでの悪い噂のせいで払拭はできそうにない。

『婚約破棄されたら、私は錬金術ができるところへ逃げようと思います』
 ウィリアムから教わった甲斐もあり、基本的な薬までは作れるようになった。後は錬金術に寛容な国へ渡って、生計を立てるために働きながら勉強していこうと思っている。

 イザベルが今後について話し終えると、突然ウィリアムが眼鏡を外して跪いてきた。
『そんなこと言うな。俺はあの時励ましてくれた君を救うために、約束を守るために、ずっと研究を続けてきたんだ』
 イザベルは眼鏡を外したウィリアムを見て息を呑む。


『あなた、ルーシャン・エインズワース様?』
 目の前にいるのは初めてのお茶会で出会った少年だった。顔立ちは大人びて、髪は栗色から黒に変わってしまっているけれど、変わらずの美貌を持っていた。
 イザベルはあの日の出来事を鮮明に覚えている。忘れるはずがない。
 それは受付で逸れてしまったアデルを探している時のこと。

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