だって、お姉様お望みの悪女ですもの

02



 イザベルにはロブへ婚約破棄を突きつけられない理由がある。それはとある誓約書で、王家の前で誓いを立てているため簡単に取り下げができない。

「こうなったら浮気に関してお父様の方から抗議してもらうしかないけど。無理でしょうね」
 万が一父がマクウェル家へ抗議してくれたとしても、今度はロブが適当な理由をつけて反論してくるに決まっている。

 例えば、イザベルの悪行に耐えられずアデルに相談していくうちに深い仲になってしまった、とか。
 そこまで考えてイザベルは嘆息を漏らした。
「噂がどこから流れているのか分からないけど、私はこの学園で名高い悪女だものね」

 どうしてそうなったのか分からないが、セントベリー学園に入学して一ヶ月と経たないうちにイザベルは周りから悪女だと陰で囁かれるようになった。
 初めてできた友達と親睦を深めたかったのに、根も葉もない噂のせいで周りから距離を取られるようになり、今では用事がない限り誰からも話かけられない。教室ではいつも一人だ。

 噂の内容は、気に食わない女子生徒に陰湿な虐めをしているや、隠れて飲酒しているなど。
 この三年間、友達はできなかったし楽しい学園生活も送れなかった。授業や行事以外で思い出として残っているのは、お茶汲みや着替えの手伝いなどもっぱらアデルの面倒を見ることくらいだ。

 ロブとは入学当初によく食事をしていたが、悪女の噂が流れ出してからは食べなくなった。恐らく、イザベルが自分の婚約者だと思われたくなくて距離を取ったのだと思う。
 イザベルは噂通りの人ではないと否定できたはずなのに、ロブはただ保身に走った。

「本当、嫌になるわ」
 学園では悪女と言われ、プライベートではつきっきりで面倒をみていた姉に婚約者を取られてしまった。これまで気づかないフリをしてきた様々な感情が合わさって、胸が痛く苦しい。視界が涙で歪む。
 イザベルはとうとう嗚咽を漏らした。


「――ねえ、そのノート俺のなんだけど」

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