双子のパパは冷酷な検事~偽装の愛が真実に変わる時~
検察庁の食堂にて
「来たよ、あの検事さん」
同僚のひとりにそう言われ、私は厨房から食堂の入り口に目を凝らす。
氷のように冷たい無表情で入ってきた長身男性が、小さな食券を手にこちらへ向かってくる。艶々とした黒髪は眉の上に分け目があり、そこから額と直線的な眉が覗いている。
マネキンのように美しい鼻筋や顎のライン、切れ長でありながらくっきりとした二重まぶたの目、薄い唇。
悔しいけれど、黙っていればカッコイイ人だと思う。
スーツの襟につけられたバッジは、真っ赤な旭日に金色でふちどられた白い菊の花弁と葉。
彼はここ、東京地方検察庁――東京地検で働く検事なのだ。
名前は神馬鏡太郎。食堂で時々聞こえてくる噂話によると、三十一歳。若手の中では最も優秀な検事らしい。ただし、壊滅的に人の心がない。
検事というのはきっとそんな人たちばかりで、だから世の中から冤罪がなくならないのだ。
「琴里ちゃん、やっぱりやめたほうがいいんじゃない? 大人しくいつもの塩サバ定食出しましょうよ」
もうひとりの同僚が、自信なさげに私の白い調理着を引っ張る。ここで働くスタッフは全員、それに白い帽子とマスクをつけている。
かくいう私、村雨琴里もその一員だ。各地で社員食堂などを運営する調理専門の派遣会社に登録しており、今年の春から東京地検に派遣された。
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